少年愛の美学―稲垣足穂コレクション〈5〉 (ちくま文庫)のレビュー

かなりまともな、ただし俗流フロイト論
 本書は氏の随筆2点「少年愛の美学」および「A感覚とV感覚」を収録。
 博覧強記と称すべき古今東西膨大な文献等を参照しつつ、そこに自身の体験や見聞を交えて、
(それぞれ性器の頭文字を意味する)「A感覚」「P感覚」「V感覚」を論じていく。

 引用された資料だけでも相当に読み応えはあるし、ところどころに目を瞠るべき示唆も
含まれているには違いない。
 しかし、その表題から想像されるだろう倒錯的な官能性という点からすれば、
かなり物足りない、というのが偽らざる本音。
 もちろん、語るということは絶えず陳腐に堕することを宿命づけられた行為には
違いないのだけれども、良くも悪くも、まともな感性を持った人がまともに性を
語ってみただけの一冊。
 エロティシズムとしてはあまりに凡庸で、刺激に乏しい。
 フロイトに大いに触発されて、それを土台としつつも、彼自身のことばでもって少年愛や
同性愛を再構成しようとした稲垣氏のその意図は十二分に伝わる。
 ただし悲しいかな、あまりに普通で、背徳性や官能性に欠ける。
 リビドーやらをめぐる言説にまつわるフロイトへの典型的な誤解も見受けられる。
分かってるな、と膝を打たされる点も見られるだけになおさら惜しい。